■D&T■

バス停で待つこと数分。バスが泥雪を蹴散らしてやってきた。
私はバッグを持ち直すと黒い雪に掛からないように乗り口に近付いた。


「来年はうちに来るといい。馬鹿も喜ぶだろうしな」
なにやら新しい家族が増えたようだし、と意味深な呟きも含めて彼との短い挨拶。
「是非そうさせて頂戴」
にっこり、とは言わないが(私は笑うのが得意ではないのだ)なるべくそう見えるように笑った。
そして、
『Merry Christmas』
お決まりの言葉。同時だったからちょっと可笑しかった。
彼とは、コーヒーショップを出てすぐ別れた。
注文したケーキをとりに行くとのことだった。


「お」
「あ」
挨拶以下のただの音。バスから降りてきたのは偶然にもあの男。そしてもう一人の金髪の女性。私はこの人を何処かで見たような気がする。
「パーティ?」
「まあね」
「そか」
大きなブランド物のボストンバッグを片手にそいつは屈託無く笑った。こいつは強い。色んな意味で。
私は運転手に紙幣を渡してトランスファーチケットを貰った。
運転席の後ろ、窓側に陣取るとバスの貨物入れから海外にでも行っていたかのような大きなトランクを運び出している金髪美人を見た。彼と似たような黒いコートを着ていた。
私は窓を叩く。
「Merry Christmas」
『Merry Christmas』
二人の声が重なった。笑顔がとても似ていた。
(新しい彼女?…違うわね。新しい家族って彼女のことか)
発進したバスの中で、移り変わる景色を眺めながらそんなことを考えた。
粉雪が舞い始めていた。




「元カノ?」
走り去るバスを見送りながらトリッシュが言った。
「いいね、そういう冗談は好きだぜ」
同じく、ダンテがハッと笑い飛ばす。
「友達だよ、数少ない。紹介しなかったか?」
「生憎と」
「そうか。まあそれは俺の役じゃないけど」
「どういう意味?」
「ま、おいおい分かるさ」
「行っちゃったけどいいの?」
「いいさ。来年は来る」
「なにそれ、私がいない間に一体何があったって言うのよ」
「そりゃあ、色々あったさ。今度こそ本当に死んだと思ってた兄貴が帰ってくるくらいの珍事があった年だぜ?」
「そりゃそうだけど」
「道々話すよ。本当に色々あったんだ。…主にバージルが」
「ふうん」
「それより、トリッシュは今年は何カ国回れた?」
「凄いわよ。数えているだけで日が暮れちゃうぐらいは行けたわね」
「偽造パスポートは」
「ばっちり。エンツォに感謝しなきゃ」
「ああ、こればっかりはな」

談笑する二つの足跡が泥雪の上について、降り始めた雪がそれを隠していく。