もしもし。―――あらお兄さん?
珍しい。坊やじゃないのね。
相変わらず冷たいのねぇ。
まあいいわ。
どちらにせよ、あなたに用があったのよ。お兄さん。
要件だけ言うから、よく聞いておいてね。
どガシャン、バキバキという騒音でダンテは目を覚ました。仕事帰り、疲労、正直、無視したい。
時計を見ればきっかり午前2時半。そんな時間に騒音を立てるほど野暮な兄ではないので、きっと何かあったのだろう。ひょっとしたら兄は関係ないのかもしれないが、先ほど電話がかかってきたのはうっすら覚えている。多分、それが原因だと思った。
裸足のまま階段を下りて事務所の扉を開ければ、そこにあったのは真っ二つに割れた黒檀のデスク。
あれ?黒檀て割と頑丈な素材だったよな?と寝ぼけたことを考えながら近づけば、何か鋭いものを思い切り踏み抜いてしまった。
「―――!―――!」
声にならない悲鳴。一瞬にして眠気が吹き飛んだ。
足をそうっと持ち上げれば、黒いプラスチック片が足の裏に刺さっていた。摘み上げて首をひねる。何だコレ?
改めて視線を床に落としてすぐに合点が行った。
それは粉々に砕けた電話だった。
坊やとあなたのお友達のお嬢ちゃん。
あの子、死ぬわ。
誤解しないで。私のせいじゃないわ。
ねえお兄さん。
あなたは坊やと違って学がお有りでしょう?
『多勢に無勢』って言葉、知ってる?
あら、怒っているのね。
知ってるわ、全て。
いいわ。
教えてあげる。
場所は――――……、
ああ拙いわ。
ほんとやばいかも。
こんなに多いと、さすがにやり切れなさそうね。
マガジンも残り少ない、し。
もうそろそろ退かないとマジでヤバいわ。
どうしよう、逃げ切れる?
ああなんてこと。
バイク、さっさと弁償させればよかった。
ブラウスにシミが!
冗談じゃないわ、血痕なんてクリーニングにも出せないじゃない!
ああ拙いわ。
傷口が泡立ってるし。
これって、ひょっとしなくても毒じゃない。
ああ拙いわ。
熱いんだか寒いんだか。
ああ拙い、わ。
視界がぼや け
「おース。お持ち帰りたぁバージルにしては頑張ったじゃん」
軽口で出迎えられたバージルの背には、あの名無しのお嬢ちゃん。白いブラウスに赤いシミが良く映えた。
意識の無い彼女を黒皮のソファに横たえて、初めてバージルはダンテに視線を送った。いつも後ろに流している前髪は下りて、見た目はダンテと変わらない。
ダンテは少し考えてから、悪魔の名前を挙げる。爪や牙に毒を持つもの、悪魔の体液の中に毒を持つもの、精神を攻撃するもの、自律神経を攻撃するもの。ざっと10種類は挙げると、バージルはその中のうちの一匹を挙げた。ダンテも頷く。
「消毒したぐらいじゃ助からねーよ」
「…」
けど方法は無い訳じゃないぜ、とダンテは言った。
「頼む、」
バージルは迷わず答えた。
相変わらず前髪は下りたままだった。
*
ダンテの知識はトリ+ダン「奇妙な関係」につながっていると仮定します。