ガンガンガガガガガ!

「すげえな」

「やばいわね」
「防弾だよな、これ」
「や、普通に考えてキャリバー50は無理でしょ」
「やっぱ?」
ガガガガガヒュヒュヒュヒュン!
「おおっほ!やっべ。超鳥肌立った」
「アンタ、どうせ死なないんだから捨て身で突撃しなさいよ!」
「やだよ。痛いし。レディこそどうにかしろよ」
「えー?もー…うーん、分かったわよ」
(手、有るのかよ)
ごそごそ。じゃじゃーん。
「うげ。すげえの持ってる!」
「うん。奪った」
レディの足元には白目を剥いた兵士が一人。
「いやー済まんね。俺のために!」
「ほんと、もうちょっと上手くやりなさいよね。どうしてアメリカ人がアメリカ人に狩られるわけ?」
「俺はホルマリン漬け嫌だー!」
「まあ、好きな人はいないわね」
安全ピンを抜いて一拍置く。弾幕が切れた一瞬の隙を突いて防弾ベンツの脇からレディが手榴弾をブン投げた。
ドォン!という爆音に続いてガラガラとなにやら建物が崩れ落ちる。
「美しくないな」
「同感」
ひょこっと顔を出して左右をきょろきょろ。
続いて立ち上がる二人。ダンテはベンツの拉げたボンネットを覗き込んだ。
レディはコルトのマガジンを取り替えている。

バゴン!

その音がするよりも早く、二人が同時に横に身を投げた。
ダンテは右へ、レディは左へ。ベンツが真っ二つに割れる。
「今度は狙撃だってよ」
「対戦車ミサイルよりはマシかしらね」
何処からか分かる?とレディ。
ダンテはキョロキョロとあたりを見回した。
「遠すぎる。すんげえ。一キロ・・・いや一キロ半くらい離れた所から」
「それってひょっとして・・・」
「・・・ああ。考えたくないけどな」

 

『バレットM82!!』

 

叫んだ瞬間に来た第二撃は運よく近くの街灯をぶち抜いた。
二人はひた走る。レディが落ちてたジュラルミン盾を拾った。
「そんなんじゃぶち抜かれっぞ!」
走りながらレディは素早く左に盾を掲げる。カンカンカヒュン!と弾を弾く音が響く。
「・・・ね?」
「なるほど」
盾の脇から応戦するが、こちらは走りながら。当たる筈も無く壁を数センチ抉るだけに終わる。
「あの辺ならバレッドから死角なはずだ」
「アンタの悪魔の勘と運を信じるわ」
「喜んで!」
「アンタなんか死ねばいいのに」
二人はレンガ造りの古いビルディングに滑り込む。
柱の影にするりと入り込んだのと同時に抜き放たれた銃から弾が吐き散らされた。

 

 

 

 

「死角に入った」
「ああ」
観測手と狙撃手が銃撃戦が繰り広げられている市街地からやく1500メートル離れたビルディングの屋上にいた。
二人の受けた命令は単純だった。
即ち、『銀髪の男を狩れ』。
軍の、それも精鋭一小隊が相手にするほどの人物なのだろうか。その『銀髪の男』とやらは。
しかし命令は絶対であり、失敗はどんなミッションでも許されない。
観測手は精度の高いそのスコープから目を離すことなく彼(正確には、彼ら。男女二人組みだ)が死角から出てくるのを待った。
銀髪の男。名をバージルと言う。
写真では髪を後ろに流していたが今は下りている。
赤い、レザーコートのような悪趣味な服装で改造銃を二丁所持していた。ジャパンの忍者が持つ日本刀を持っているという情報が入っているが確認されていない。どのみち、長距離狙撃にはあまり効果が無い武器ではある。
彼の経歴は、それなりに興味をそそるものではあった。情報部がその男一人の経歴の全てを洗い切れなかったのだ。国が一個人のプライバシーも暴けないとは、聞いて呆れると同時にその男にある種尊敬の意を抱いたのは秘密だ。
赤いコートの男、バージルはまだ死角に潜んでいる。無線ではその場で銃撃戦になっているようではあるが、如何せん遠すぎて、加えてその無線の音で銃声自体は聞こえない。
それにしても、何の罪も無い(というか分からない)男一人を、何故殺さねばならないのだろうか。確かに腕は立つようだが、どう見てもならず者にしか見えない。
「兵士が考え事とは、呆れたものだ」
「?!」
観測手はノイズの混じっていない生の声を聞いた。狙撃手の声ではない、気配は全く感じなかった。
慌ててスコープから目を離したのと同時に目の前に大きな銃口がピタリと照準を定めた。
眼球だけ動かしてみれば、狙撃手は首から盛大に血を吹き出して倒れている。何と言うことだろうか。全く気がつかなかった。
「俺は銃が嫌いだ」
銀髪を後ろへ流した男が冷たい瞳で観測手を見下ろす。見下すと言った方が正しいかもしれない。
「品が無い。それに、技術もいらない。指を捻ればそれで全てが終わる」
全長約145センチ、重量約13kgを片手で軽々と持ち、その銃口は一ミリも動かない。加えてもう片方の手で鮮血滴る日本刀を無造作に持っている。頬には返り血と思しき血痕が数滴。
銀髪の男は、二人だったのだ。
「フム。ターゲットは俺だったようだな」
日本刀を持つ手の指二本で指令書を持ち、それに目を落とした男、バージルが言う。独り言であろう。
「残念だ。貴様が狙ったアレは、俺ではない。・・・当たり前だが」

 

今、俺はとても腹を立てている。

何故か分かるか?

 

バージルは指令書を放した。ビルの上の強風に煽られて薄っぺらな紙一枚、頼りなさ気に吹き飛ばされる。
あの紙と自分の命は、おそらく彼にとって同等だろう。観測手は声には出さずに神に祈りを捧げた。防弾チョッキの下のロザリオの重みが心の拠り所のように感じられた。
「・・・理由は三つ。その一、さっきも言ったが俺は銃が大嫌いだということ」
「ジーザス」
「その言葉は無効だという事を教えておいてやろう。その二、俺は愚弟と間違えられるのが大嫌いだと言うこと。その三、・・・」
「この悪魔が!」

Jackpot!国が悪魔を御しようとするな。吹っ飛べ、クズ」

 

 

 

 

 

「ギネスに申請できる」
「でもした瞬間ムショ行き」
死屍累々瓦礫の山々。
返り血と砂埃とオイルと灰に塗れた男女が廃墟の上に立ち尽くしている。
「ぐ、軍を相手にして一戦交えちゃって、しかも勝っちゃった!」
女は青ざめた顔でそんな絶叫をした。
男はオイル塗れの顔を肩で拭った。こちらは笑みを浮かべている。しかし目は死んでいる。
「なんだったんだろーなー、ほんと」
「国外逃亡もんよ、どうしてくれんの!」
「外国かー俺ハワイがいいなーあ、国内じゃん」
「ちょっと現実逃避止めなさいよ!」
「あー日本がいい。そうだ日本に行こう・・・」
「スケープゴートご苦労。死ななくて残念だ」
憔悴しきったダンテとレディの前に現れたバージルは開口一番にそんな事を言った。
レディがため息をついて、ダンテはギっとこれ以上無い殺気を込めてバージルを睨む。
「てめ、よくもぬけぬけと顔が出せたなコラ!!」
「まあそう怒るな。スナイパーを潰すぐらいはしたさ」
「そう。それでそんなモノを持ってるのね」
バージルの手には依然大型狙撃銃が握られている。
「至近距離で撃ったら人が爆砕した」
「タリめーだブァカ!人殺し!」
「お前にだけは言われたくない。ジェノサイダー」
ダンテが掴みかかろうとするがバージルはするりとかわした。体力の限界に近いダンテはそのままべしゃりと崩れ落ちる。
「バージル。血、付いてる」
レディが頬の血を拭ってやる。
「すまん」
「うん」
「・・・お前ら、死体の山の中でラブコメしてんじゃねえよ・・・」

潰れたダンテが顔も上げずに呟いた。

 

 

 

***

 

未完だけど終わり。

銃撃戦が書きたかっただけ。