ふと気付いたら海の中。


In the “B L U E”.


ふと気付いたら海の中。確かここは海から随分離れた街中だったはずだ。自分が知らぬ間に移動したのか海がやってきたのか。自分には良く分からない。
そもそも何故海なのだと分かったかと言うと、ただ単に水に塩分とミネラルの風味がしただけであって、ここが巨大な、湖のようなプールで水は海水に似せて作ってあると言われても納得がいく。水深50センチメートル。底には、砂。足の間を魚がすり抜けていって妙にくすぐったい。
ザザ、と波が擦れる音がする。

誰もいない。

誰もいないのだが、魚が泳いでいる。
夢か幻か。判断がつかない。

「……誰かー……」

いませんか、という後半部分は掠れて消えてしまった。
空が青い。雲が高い。
ザブ、と水を蹴って一歩前に進んでみる。
何故か裸足の足の裏固い感触がして覗き込む。透明な青と砂の下にキラキラと光るもの、一つ。

「よい、しょ……なんだこれ?」

拾い上げてみた其れはなんだか見覚えがあるような無いような、酷く拉げた金属の塊。
クウクウ、とカモメが鳴いている。
取り敢えずヨレヨレのハーフパンツのポケットに押し込んで再び歩き出す。この深さなら泳げなくは無いが、状況が分からない以上余計な事で体力を消耗したくは無かった。

ザブ、ザブ。

靴は何処に行ったんだろう何でTシャツの片方の袖が千切れているんだろうしかもなんだか焦げているようだし。痛いと思ったら、嗚呼、瞼の上に小さな掠り傷が。

「すいませーん」

遠い水平線見当たらない大地。砂にしては粒子が細かい水底は歩くたびに小さな煙になって海水を濁らせていく。


ザザ、ザザ。

ザブザブ。

クウクウ。

ザザ、ザザ。

ザザ、ザザ。


どのくらい歩いたのかどちらがどの方角なのか。太陽は頂点に座したまま必要以上にギラギラと殺気立っている。小一時間は歩いたような気がするがちっとも動かない太陽から察するに時間的にはそう長いわけではないようだ。それにしても、傾きもしないのだけれど。
ギラギラする光は惜しみなく紫外線を含んでいてむき出しの腕と顔が、痛い。時々海水をかけて冷やしていないと、後で風呂に入ったときに痛くてしょうがないだろう。
それにしても、

「…誰もいないのか?」

繁華街ゲームセンターの中で友達と一緒にレーシングゲームをしていた。友達は赤いポルシェを選んだから、自分はダンプカーにした。
いつもの、放課後。明日の体育が嫌だな明後日は英単語テストがあったっけ。そんな事をぼんやり考えながら遊んでいた、いつもの普通の日常。
海。
にわかに関連付けられない二つの要素に首をかしげる。
自分はどうなったのだろうか。
そもそも、最期に何があった?


ザザ、ザザ。


するりと足の間を抜けて泳いでいく魚たち。そう言えばみんな、同じ方向に向かって泳いでいる。自分の、向かっている方角へ。

「……?」

チャプ、という初めての音。何かが水面で揺らめくときに立てる作為的音響。
チャ、と魚が跳ねた。



その先にあったのは青い水面を塗り潰すほどの、