君が愛しくて仕方が無かったのです。
君が殺してしまいたいほど愛しかったのです。

だから、この身は朽ちました。
だから、この躰は腐りました。









君を愛したから、僕は死んだのです。






愛しさ、故に腐敗



「秋だね。葉が落ちるね」
木枯らしにカタカタと揺れる窓越しに乾いた空を見上げた。
「もうすぐ冬だね。雪が降るね」
病室のベッドの上にきれいに畳んだシーツを置いた。
「観覧車に乗りたいね」
言葉は白塗りの空虚な壁に跳ねることなく染み込まれた。






きっと貴方は最後まで愛してくれたんだろう。
だからこんなにも綺麗な顔をしているのね。
ひどい。貴方ったら私より肌が白い。
まるで人形。
そう、お人形みたい。






この冬一番の冷え込みと報じられた今日は、風も強い。
買ったばかりのマフラー、手袋はまだ買っていなかったのでコートのポケットにしまっておく。
アスファルトをブーツの踵でコツコツと鳴らしながら街を歩けば、ついこの間までかぼちゃを売っていた花屋が柊を売っていた。
柊の隣には緑と赤のマフラーをつけてバケツの帽子を被ったスノーマンの置物。
Merry Christmas!!
そう、もうそんな季節なの。







寝ているとしか思えなかった。
最後に行った海浜公園。
むやみやたらに大きい観覧車を眺めながらずっと一緒に立っていた。
乗らないの?と聞いたら、
観覧車って乗るとつまんないけど見てると楽しいんだよ。
とかなんとか。
後ろにあったいつもより大きい月が空に開いた穴のようだった。





結局買った柊の鉢を抱えて、幸せそうなカップルをぐんぐん追い抜いていく。
そういえば、去年のクリスマスは何をしていたっけ?
考えてみたら私はまだ貴方を知らなくて、誰か他の人と彼らのように街に繰り出したような気がする。
新宿サザンライツ。今年もやるのね。
小さな塔の下に恋人たちが入った。
楽しげなメロディーと万華鏡が彼らを喜ばせた。




「――――」
名前を呼ばれて振り返れば、見知った顔。懐かしい顔。もう見たくなかった顔。
私は黙っている。彼もそれ以上は黙っていた。
「――――」
ようやくひねり出した言葉。『帰って』の言葉。拒絶の言葉。
でも彼は眉間に皺を寄せただけだった。寒いだけだと言い聞かせた。
「――――」
迎えに来た。
「――――」
必要ないわ。
「――――」
どうして。
「――――」
どうしても。

また沈黙。
私と彼の間を縫うように人々が流れていく。

「――――」
せめて送っていきたい。
行くんだろ?彼の墓参りに。






遠くから昇っていく煙を見ていた。
やだ、貴方ったら観覧車より高いところにいっちゃったのね。
そんな高いところ、私登れないわ。
降りてきて頂戴。
降りてきて頂戴。






「秋だね。葉が落ちるね」
木枯らしにカタカタと揺れる乾いた空を見上げた。
「もうすぐ冬だね。雪が降るね」
墓標の前に柊の鉢を置いた。
「観覧車に乗りたかったね。・・・三人で」
お腹の中でもう一つの命が頷くように震えた。








君が愛しくて仕方が無かったのです。
君が殺してしまいたいほど愛しかったのです。


だから、この身は朽ちました。
だから、この躰は腐りました。















君を愛したから、僕は死んだのです。








「――――」
もういいのかい?
「――――」
ええ。ありがとう。
「――――」
…どういたしまして。




FIN