見てくれはともかく。
ダンテの料理はそれなりに美味しい。
毎日作れば、バリエーションも増えるであろうし、腕も上がるだろう。
筋はいいのかもしれない。
ただ、彼のそれはあくまでも趣味の域を出ない。いつもはデリバリーか外食、或いは冷凍食品で済ませてしまうのだ。テレビを見ながらその日適当に選んだものを適当にレンジに突っ込み適当に温めて適当に食べる。
例えば今日は、よく分からないぶよぶよしたボンゴレビアンコと気まぐれに買ってきたバタールを半分(しかもバターもジャムも無しで食べた)。時折チャンネルを変えているのは大して見る気が無いからだ。それらとビールを適当に食している。
だが気が向けばソテーやパスタ、時にはピザ、ラインナップは兎も角それなりの物を作っている。サラダを創ることも有る。
見てくれは勿論プロには及ばない。その上ガサツな彼の性質上、それは重要視されない部分ではあるのだ。
つまり、彼は食べられればいいのである。

趣味と言いながら。

 

そしてダンテはよく、トマトを使用するようだった。

 

 

 

 

チェーンソー ブラッドバス トマト

 

 

 

 

 

元、その名の通りにイタリア系だからか、家族でトマトを好んでよく食していた。或いはただ単に、母親が好きな物だったのかもしれない。それにしても彼のトマト好きは少々人並みはずれているように見える。この間など、トマトソースの冷静パスタとトマトサラダとトマトジュースとトマトゼリーと言うなんだかよく分からないフルコースを作っており、流石に何か悪い悪魔に呪われたのかと心配したことも有る。

「またトマトなのか」  

バージルは定番のコーヒーを新たに買い換えたばかりの大き目のカップに注いだ。それぞれの色ごとに別けられていたのは気に入っていたのだが、この家にあるカップは彼にとって量が少なかった。食事を普通の人間のように必要としないバージルにとって殆ど唯一と言っていい外部摂取であるためか、バージルはよくコーヒーを飲む。
「小さい頃から、」
チキンピラフにケチャップを入れながらダンテが笑った。
「俺は野菜が嫌いでさ」
色がついた米のほかに入っているのは冷凍のミックスベジタブル。以前少し口にしたときに絶句した。野菜どころか、あらゆる栄養素が抜けたような貧相な食感だったからだ。これも、この家の冷蔵庫には意外に常備されている。
「トマトくらいしか食べられなかったんだ」
「お子様味覚め」
「今はそうでもない。でもやっぱりトマトは好きだ」
少し焦げたチキンピラフを皿に盛って、ダンテは再びフライパンを火に掛けてバターを幾つか落とした。
「よーし、今日は奮発してやるぜ!」
「頼んでない」
ダンテの手には卵が数個握られていた。

 

 

 

 

「・・・・・・ほい。どうぞ」
カップがすっかり空になって二杯目を注ぎにキッチンに戻ってきたバージル。テーブルの上にゴト、と置かれたオムライスを見てすかさずダンテを睨みつけた。
「厭味か。いらない」
「いやほら、旗もつけたし。スマイリーが上手い方を譲ったんだぜ」
見てみればダンテのオムライスに描かれているスマイリーは自分の目の前にあるものに比べて幾分か歪んでいた。
卵もふわふわとろとろ、というわけでもなく、矢張りこれも少し焦げ気味で、どうも美味しそうには見えない。
ダンテは自分が食事をしないことを知っているはずだ。今までも、自分の分しか作らなかった。一人分の食事を作ることは複数人分のものを作るよりも難しいと聞くが、ダンテに限っては自炊経験が長いため真逆で、一人分の食事しか作れないのだと本人は言っていた。
「いらないって言うなよ。折角作ったんだし。拒食ってワケじゃないんだろ?」
だが食欲が無い。無いのだから食べない。それだけなのに。
渋るバージルを見て困ったようにダンテが首を傾げた。やっぱり無理だったかな?と言った表情で。
それを見てちょっとした反抗心と同情が芽生えなくも無かった、が、やはり何か口に入れる気にならない。仕方ないが此処は諦めてもらうとしよう。
そう思った矢先、事務所のドアが開いたのが分かった。

「ダーンテ、仕事持ってきてあげたわよ。ダンテ?」

聞きなれた声。レディだ。ダンテがキッチンにいると応えた。
「今回のは当たりだと思うわよ。受けてくれるわよね―――って、あら、あららら!」
バタン、とやや乱暴に(この業界はガサツな人間が多い)扉を開けてすぐ、レディはテーブルに駆け寄った。
そしてオムライスを見るや否や、何コレ可愛いすごいどうしたのコレねえ、と歳相応な声を上げた。
「ダンテ様作特製オムライス」
「焦げてるところが特製」
「黙れよ。見てくれが悪いだけなんだ。―――お嬢ちゃん、それ食べていいぜ。オニイチャンは胃袋が無いから食べられないんだ」
「え?いいの?何だか勿体無いわー」
ダンテはすっかり失念して二人分作ってしまい困っていたところだ、とおどけて言ってみせた。レディは素直に嬉しそうな顔をして、テーブルにつく。仕事の話、忘れているに違いない。
ダンテが『いいよな?』と目配せをしてきた。それに気がついたレディがバージルを見る。
「本当に食べていいわけ?まだ食べられないの?」
「まあな。気にしないで食べろ。それの料理は割りと上手いほう・・・らしいから」
「悪魔狩り辞めてリストランテやろうかな」
「この場所で?誰も来ないだろうに」
ダンテは冷蔵庫からサラダを出した。本当に、やる気になれば凝り性な男だ。
サラダの取り皿をレディの前に置いたところで、バージルは自室に戻ろうと階段へ向かう。
「バージル、ちょっと」
それをレディが止めた。トントン、と自分の横の席を指して座るように促す。
少し迷ってから、バージルは言われたとおりに彼女の隣席に腰を下ろした。そうしたところで、バージルの目の前に半分になったオムライスが置かれる。
「気を使うな」
「あなたは気を使うべきね」
ぱく、と一口目を口に入れながらレディが視線を寄越した。揶揄を含んだその視線の意図を測りかねてバージルはダンテへ視線を投げる。だがダンテも分からない、と肩を竦めて見せるだけだった。
それを見て、二口目を頬張る前に彼女は揶揄から非難の色を濃くして言う。
「本当に馬鹿ね。ダンテが作ってくれたんでしょ。あなたに」
食べられないあなたに。食べられるようになって欲しくて。
「そうなのか?ダンテ」
「いやまあ、そういう思惑が無いと言えば嘘になるが」
でもそれ、本人の前で言うか普通。
ダンテは少し戸惑い気味の表情で答える。
半分になったオムライスに視線を落とせば、まだかろうじて湯気が立ち上っていた。これ以上放っておけば冷めて味が落ちるだろう。  

何故かそれは、
非常に、
美味しそうに見えた。

  スプーンを手に取ったバージル。それを見てダンテが慌てて制する。
「!・・・無理しなくていい。最初からレベルが高すぎた。もっとこう・・・緩いものから」
「俺は病人ではない。食べたくないから食べなかっただけだ。食べたければ、食べる。それだけだ」
我ながら可愛げのない切り返しだ。レディは「最初からそうすればいいのよ」とニコリともせずに言ってサラダにドレッシングを掛けている。
バージルは今までもそうしてきたかのようにチキンピラフを口に運んでいる。うまいともまずいとも言わずに、黙々と食べ続ける。
「・・・・・・・・・あ?・・・え?」  

それ以上何も言えなくなったダンテは、信じられないと言った表情で目を瞬かせながら、そして若干首をかしげながら、自分のオムライスにスプーンを入れた。

 

 

***

 

弟なりの心遣い。でもジルディです。なんですったら。
ダンテは何だかよく食べるイメージ。バランスとか全く考えないで食べていそう。
そしてトマトは好きだけど、スイカは嫌いそうだ。
4発売前日に3の話を書く自分も大概KYですふははは。