白い。
それが視覚として分かる情報の全てだった。

耳は?

分からない。色々聞こえる。
まず踏切の音。あと、物凄い速さで通り過ぎていく救急車のサイレン。
さわさわと聞こえるざわめきは、人のもの?
カタカタという音と、水のサラサラ流れる音。
全ての音を繋げると、どういう状況になるんだろう。わからない。

何を感じるかって?
これもよく分からない。
冷たい。けれど暑い。
立っているつもりなのに、凭れているつもりはないのに、何処からも圧力を感じていて。
それでいて奇妙な浮遊感がある。
そうだ。
顔は冷たいかもしれない。
指先と、足も。
動こうとすると、何かに押しつけられて。
或いは動こうとしても動かなかった気がする。

臭いは、これは簡単。
二つだ。
苔の、むせ返るような生命の匂い。
それから━━━、











鉄の臭いだ。











「見たか?」
「あ?何を?」
「ばぁか。人身事故の犠牲者だよ」
「あー見た見た。救急隊員も可哀想だよな。だってもう死んでるじゃんか」
「しっ!一応はまだ生きてんだぜ。病院で死んだら報告書の量がずっと減るよ」
「まあな。俺たち警官が来る意味が分からねえもんな。来たところで、何も出来ないのに。これじゃ野次馬だ」
「だな。しかしこの野次馬の数、すげえな。みんな案外グロいもんを求めてんのかね?こんな挽き肉みたいな自分と同じ動物を見たところで、こっちは面白くもねーのによ。
…さて。救急車も行っちまったし、今日はこれで上がろうや」
「だな。



…人々がグロテスクを求めてる、か。
これもあいつ等にはエンターテイメントか…?」「あ?何か言ったか?」
「いや。何も。
どうだ?今日は最近出来た焼き肉屋に行こうぜ」
「いいねえ。給料日前だがパーッといこうぜ!」







ああ。
体が崩れてゆく。
冷たい感覚が体を上っていく。

ここは何処?
なんでここにいる?
何処から来た?
何処へいく?

誰かいないのか?

誰かって誰だ?

分からない
わからない
ワカラナイ

ワか ナ
カラ
ワカ なイ
ワ ら
わ ラナイ















or END