妙な奴だと思った。
でも根はいい人なんだと思う。
そしてやっぱり、あいつの兄弟だと思った。
「お兄さん」
私の短い呼びかけに、びくりと肩を強張らせる。
振り向かない。明後日の方向を見ながら、けれど頬を伝った一筋の汗は見逃さなかった。
「お兄さん、女の子に隠し事をするならもう少し上手くやることね」
返事は、無い。
私は最低限彼のプライドを傷つけないように、しかし自分の気持ちはしっかり伝わるようにゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
けれど相手はあの強情な、彼。
次に来る言葉は、容易に想像ができた。
「大した事じゃない」
「でしょうね」
「気にするな」
二言目には『気にするな』。
こういうところ、双子の弟のあいつも同じだ。
「いいから、診たげるから、ほら」
「いらん気遣いだ」
一瞬こめかみが引きつるが、我慢我慢。
こいつらと付き合うには、子供に対するそれと同じくらい根気が必要なのはよく知っている。
「手を出しなさい、…バージル」
そして、これはこの男に限ったことなのだが。
名前を呼んだときだけ彼はおとなしくなる。
そのことについては彼も自覚があるようではあるけれど。
「バージル」
振り返ってゆっくりと差し出された腕。
コートの袖がばっくり割れて、血が滴っていた。